バイザー




My VISOR is picking up
     some torsional stress damage and micro-fractures... ("Rascals" [TNG])


ラ・フォージ少佐(愛称ジョーディー)は、生まれつき盲目である。しかし彼はバイザー (VISOR)という特殊な装置の助けのもとに、通常の眼の機能を遥かに越えた非常に高い識別能力を発揮するのである。VISORとは、Visual Instrument and Sensory Organ Replacementの略である。

こめかみに取り付けられた端子にカチッと装着されて機能する。バイザーそのものは自動車のエアーフィルターのような形状をしており、レンズのような光学的な構造は存在しない。その構造からして、位相のズレを計測することによりフォーカス(恐らくはマルチフォーカス)を合わせている事が想像されるが、詳細は明らかではない。普通の目と同じく指向性があるので、振り向かなければ背後は見えないようだ。

バイザーは特殊化されたトリコーダーともいえる。その卓越した特徴は、観測データを直接脳に送り込むインターフェース機能にあるだろう。ただ単にデータを垂れ流しにするのでは、装着者に非常な負担をかけるので、脳との双方向のデータリンクのもとに、流すデータの質や量が調節できなければならない。しかし実際は苦痛をともなうとの事である ("Encounter at Farpoint" [TNG])。

超長波からガンマ線域までの電磁波を探知するので、彼には無線機から送信する電波さえも見えてしまうのだ (ST 7: Generations, "Descent" [TNG])。それ以外にもニュートリノ・ビームが大気と反応する僅かな徴候も捉えることも出来るらしい("The Enemy" [TNG])。また様々なパーツが組み込まれているので、本来の目的以外に改造できるらしい。敵を撹乱するために、大音量の超音波を出すように改造されたこともある("Starship Mine" [TNG])。多目的に利用出来るように改造し易く作られているようだが、これはバイザーに限ったことではなく、様々な装置の部品は組み合わせを変えると別の機能を持たせる事が可能だ。

バイザーには彼が見ている映像を送信する機能 (Visual Acuity Transmitter)がついており、スクリーンに映し出す事が出来る。Enterprise-Dのクルー達がその画像を見た時、みな一様に息を呑んだ("Heart of Glory" [TNG])。そこは可視光線はもとより、赤外線、紫外線や通常の電磁波も一面に見える、異様な世界であった。この時、映っているはずのクルーの顔さえピカード艦長には識別できず、「どうやって(詳細を)見分けているのか」と質問した。それに対してラ・フォージ少佐は、「それでは(艦長は)どうやって騒音の中から特定の音だけを聞き分けるのですか」と逆に質問をした。もっともな議論である。これにはピカード艦長も納得した様子であった。

画像送信の機能は便利な反面、トラブルの原因にもなりうる。ST 7: Generationsでは、ソラン博士一味にバイザーに細工を加えられて画像情報が漏れてしまった。ラ・フォージ少佐が機関室で見ていたものが不覚にも敵にも筒抜けになったのだ。この時、Enterprise-Dのシールド周波数がディスプレーに出ており、それを知った一味は即座に光子魚雷のシールド周波数を同調させて Enterprise-Dを攻撃した。この攻撃で Enterprise-Dは撃沈させられてしまった。【シールドの項を参照】

こめかみにあるバイザーの接続端子は直接脳に繋がっているので、洗脳目的に使われたことがある。洗脳には古典的には、体験したことの無い状況を網膜に焼き付けるという手法が取られるが、この端子を使えばもっと完璧に洗脳が可能である。少佐はロミュランに捕まり、その後なぜか釈放された。しかし、この時は既に洗脳されており、クリンゴンの総督の命を狙うようにプログラムされていたのである("The Minds Eye" [TNG])。事件解決後も、洗脳で植え付けられた記憶が彼を苦しめた。「あれは本当だったのに」と悲しそうに呟いたのである。

ジョーディーのバイザーはこのような奇妙な形をしているが、実のところ、TNGの初期でも最先端の技術を用いれば、人工眼 (Ocular Implant)を埋め込む事は可能であった。ドクター・ポラスキーが彼に一度手術を奨めた事があるが、その時は考えるところがあって断っている ("Loud as a Whisper" [TNG])。

しかし、TNG終了後のST8以降ではバイザーを捨てて人工眼を使用している。これは要するにバイザーを小型化したもので、白内障用の眼内レンズのように、眼球に超小型のセンサー類を埋め込んだものらしい。よって、得られる映像内容はほぼ今までと同じもので、いわゆる「肉眼」とは大きく異なる (ST9: Insurrection)。

24世紀後半の医療技術をもってしても中枢神経の人工再生は難しく、大脳より末梢神経に近い脊髄の再生でさえ実験段階であるから ("Ethics" [TNG])、大脳の一部ともいえる極めて高度な視覚システムを完全に再生することはさらに難しい。(現代の再生治療の発達度合いからすれば、24世紀に中枢神経の治療ができないというのは疑問かもしれない)

我々の眼の網膜からは情報を脳に伝達する無数の神経線維が出て行き、それらが集まって太い束を形成した後、やがて再びばらばらに分かれる。そして最終的には左右の大脳皮質(視覚野)へと広範囲に拡がりながら接続し、視覚情報はそこで総合的な演算処理を受け、高度な空間認識が行われるのである。

では、ジョーディーの場合はその経路のどの当たりに欠陥があるのだろうか?
もし眼球やその近傍の視神経だけに欠陥があったのならば、人工眼を作成するのはそれほど困難ではない。おそらく肉眼と同等の性能の眼を作ることは容易である。よって彼の場合は、眼球はもちろんだが、より中枢に近い脳内の神経放射に至るまで広範囲に欠陥があったに違いない。これらを遺伝子工学的に再生することが難しいとなれば、人工物で代替しなければならない。しかし全ての回線を再現するのはほとんど不可能であるから、おのずと擬似的なシステムとならざるを得ない。

「一度でいいから自分の目で日の出を見たかった」という彼の切なる願いは、結局テクノロジーによってではなく、情け深い宇宙の神秘が叶えてくれたのだった (ST9: Insurrection)。

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