裏バ−クレイ物語 パラレル編B
Written by 飼い猫スポット
−−−−−−−−−−− 第1幕 転機は突然に −−−−−−−−−

ブリッジ当直士官日誌,宇宙暦46442.1 デ−タ少佐記録
今日は私の記録(記憶ではない)では5年ぶりになる,懐かしい人より通信があった
一時期,我々とともに働いていた仲間だ。
「あらデ−タじゃないの!,懐かしいわね。ポジトロニックブレインの調子はどうお?」
「これは,Dr.ポラスキ−。お久しぶりです。私の記録ではあなたに最後にお会いしたのは宇宙暦4・・・」
「フフ,元気そうね。人間性の追求も順調なのかしら」
「ええ,勿論です。私の人間生活への溶け込み具合は常時統計を取りながら補正を実行し・・・」
「デ−タ。相変わらずね」
「ッ,しかし今,博士は私の人間性の追求過程のレポ−トをお求めになられたのでは?」
「それも面白そうね,でもそれは又今度にさせてもらうわ。今回わざわざ連絡させてもらったのはぁ,実は艦長にお願いしたことがあってなの。つないでくれるかしら?」
「そうでしたか,艦長なら今自室でお休みになられていることだと思いますのでちょっとお待ち下さい」

「ブリッジより艦長,デ−タです」
「・・うぅっ,あぁ、ピカ−ドだ。どうした?何か問題でも発生したか?」(ピカ−ドは寝ていた)
「お休みのところ申し訳ないのですが,艦長宛に宇宙艦隊医療部より通常通信が送られています。お繋ぎしても宜しいですか?」
「あぁ,かまわんよ。ここで受ける。まわしてくれ」
「了解」
「まあ,艦長お久しぶりです,お休みのところすみません。お邪魔だったかしら?」
「ドクタァ−・・・あぁ,いやかまわんよ。・・・随分懐かしく感じるな。元気だったかね?」
「ええこのとおり元気です,そういう艦長の方こそ・・・心臓の調子は如何?」
「うん,さすがは君の腕だ,あの時の君の処置のおかげでぇ,今は全く問題無い」
「だからといってあまり無茶はなさらないでね」
「ハハハ,君は相変わらず私にお説教をするんだね,あ−ところで突然の今回の要件とは何かね?」
「そうそう,その話しなんですが,実はいま艦隊の医療本部と技術本部が共同で開発を進めている,あるプロジェクトがあるの・・・」
「ん?それはもしかして,この間ラ・フォ−ジとビバリ−が話していたやつかな?確か・・・ホログラム投影式医療システムとかいう・・・」
「あら,ご存知だったのね。なら話しが早いわ,つまり医療部側の開発代表責任者がこの私というわけ」
「ほう,それは大変そうな仕事だな。で?どうなんだ,君の目から見て実現の目処は立っているのかね?」
「我々のチ−ムは医学の分野はいいんだけれども,ホログラムの世界なんていつも楽しむだけでしょ?システムについてはさっぱり!でもこれは私たちだけでなく技術のチ−ムにも同じことがいえてるの。つまりその大きな溝がプロジェクトで最大のネックとなっているのよ。けどここへ来てやっと我々医療チ−ムはホログラムが使用する医療デ−タベ−スの構築を完成させられそうな所迄来たの」
「ふム,じゃあ完成も間近というわけだ。」
「ところがそうは行かないの」
「というと?」
「技術チ−ムの方に大きな問題があってね,ホログラムの行動制御迄は開発が終わってるらしいんだけど・・・,大事な行動の決定が自分ではできないそうなのよ。つまりホログラムの医者はいても,自分が何をすべきか,どんな行動を起こすべきかは決められないということね。患者がいちいち命令するわけにはいかないし・・・」
「あぁ,つまりこういう事かな?デ−タのように自分で考え,動くことができない,要は・・・ホログラムには・・・,自我がない?」
「まあ,結論から言ってしまえばそういう事ね。このままでは折角まとめ上げてきた私たちの成果が無駄になり兼ねないの」
「それでぇ−,そのことと私と一体どういう繋がりがあるかぁ,わからないんだが?」
「そこで思い出したのよ,以前私がエンタ−プライズに居たころの事を」
「・・・?」
「ほら,以前ホロデッキでラ・フォ−ジとデ−タと一緒に偶然自我を持ったホログラムが出来てしまったことがあったじゃない・・・私がコンピュ−タに,デ−タ少佐より強い敵をって注文した時に」
「・・・モリア−ティ教授の事か」
「そう!そこで艦長にお願いがあるという訳! この間技術本部のレポ−トを見せてもらったわ! 何でも最近又エンタ−プライズにモリ−ア−ティ教授が現れて,危うく乗っ取られそうになったたとか」
「ああ,非常に危ないところだった。がぁ,今はエンタ−プライズのメモリコアより分離に成功し部下に持たせてあるんだ。・・・技術本部は・・・,あれを研究したいというのかね?」
「そういうことなのよ。協力してくださる?艦長・・・」
「う〜ん,私としては異存はないがぁ・・・あれはある意味非常に危険だぞ!君も知っているとは思うが教授の成長は目を見張る物がある。あれを扱うとなるとぉ・・・余程慎重にしないとなぁ。下手をすると開発基地全体をも危機に陥れることになるかも知れん!十分気を付けてくれよ」
「ハイ,艦長。それとォ・・・実はもう一つお願いがあるんですけど・・・この開発に人を貸して頂けないかしら?・・・」
「ん?まさかぁ・・・デ−タ少佐を貸してくれと言うんじゃないだろうな?」
「いいえ」
「では,ラ・フォ−ジか?いや駄目だ,2人ともこのエンタ−プライズを動かす上でぇ・・・いなくてはならん重要な者達だ。こればかりはウンとはいえないな・・・」
「いいえ艦長。確かに二人ともとても優秀よ。でも今我々が必要としているのは,その二人じゃないわ。なんでもぉ,技術本部側のチ−フ,ジマ−マン博士がおっしゃるにはそちらの船にはホログラム制作の異才の持ち主が要るとか」
「エンタ−プライズに?,いや,聞いたことがないな・・・ほんとにそんなに優秀なのか?」
「ええ,博士が士官学校の教官に在職されていた時から,その生徒の作るホログラム世界には皆舌を巻いていたそうよ。もっともその才能だけが特化していたみたいだけど」
「ッ,う−ん・・・そう言われてもォ,ますますわからんな,一体名前は何というんだ?」
「エ−ト,確かぁ博士は・・ボ−クレいえいえ,バ−クレとおっしゃっていたかしら?」
「あのブロッ,あいいや,バ−クレイか?レジナルド・バ−クレイ中尉なのか?」
「そうそう,間違いないわ,バ−クレイ,ええそんな名前だったわ」
「そうか・・・でぇ,その自我プログラム開発には一体どれくらいかかりそうなんだ?」
「そうね,こちらではあらかた開発は終わっているの,それは技術部側も同じだから,後は一番重要なホログラムに命を吹き込むだけなのよ。まあ,うまく行けば最終調整を入れてみても半年から1年もかからないんじゃないかって,ジマ−マン博士は言っているけど私としては何ともいえないわ。唯これはあくまで,モリア−ティ教授の調査が速やかに上手くいくことが条件ね」
「・・・むぅ,話しは大体わかった。いいだろう・・・その開発にエンタ−プライズを代表して参加するよう,バ−クレイ中尉には我々の方からはなそう。あぁ,ついでに彼にはモリア−ティ教授が入っている,メモリコアも一緒に持っていってもらうとしようか。」
「助かったわ艦長。これでやっと向こうのチ−ムに大きな貸しができるわ」
「フッ,君もこの前代未聞の開発プロジェクトには大分てこずったようだな・・・」
「ええ,そりゃぁもう,でも医者のいうことをなかなか聞いて下さらない患者さんよりかわマシかしら。ね?艦長。フフフ」
「ハハハ,イヤ参ったな,君はいつもそうだ。ハハハ」
「ハァ−ア,それでは艦長。夜中にお邪魔しました。正式な手続きと依頼書は後日に艦隊本部の方を通してご連絡いたします。宜しいですか?」
「ああ,そうしてくれ」
「それでは艦長,心臓をお大事にね。以上 通信終了」
「・・・ふ〜ム,あのバ−クレ−がな・・・」


−−−−−−−−−−− 第2幕 戸惑いと共に −−−−−−−−−

− ブリッジ −
「おはよう,副長」 
「おはようございます,艦長。特に変わったことはありませんでした。まもなくΓシフトに入れ替わります。」
「ウン,ご苦労」
「昨日はよく眠れましたか?なんでも艦隊医療部より艦長宛に通信があったとか・・・」
「ン?アァ,そのことで副長,後で話しがあるんだがぁ・・・」
「・・・?」
「あ,いやなに私のことじゃない,あ−,君に事でもないぞ。たいしたことではないんだ」
「では?・・・」
「詳しくは,後で作戦室に来てもらうことになるがぁ,医療本部と技術本部のある共同プロジェクトの為に,うちから暫く,一人出すことになったんだよ」
「ホントですか?誰を出すんです?」
「じつわ向こうから是非にとぉ・・・指名がはいってな・・・詳しくは後ではなそう」
「わかりました,でわ後程・・・」
(Γシフトが来たのでライカ−はブリッジ退出)

―― ホロデッキ入り口にて ――
「ねえ,バ−クレイ,この間の西部劇のやつはとっても面白かったよ。」
「ン?やぁ,アレキサンダ−君,お楽しみいただけたかな?」
「うん,パパも楽しんでくれたみたい」
「ホントに?」(バ−クレイにはあのあとウォ−フにこっぴどく,どやされた記憶が蘇る)
「カウンセラ−だって,すっごく喜んでいたよ。」
「そっ,それは本当かい?」
「うん,もちろん。もし良かったらあの続きを作ってよ。きっとトロイも喜ぶよ」
「ああ,いいとも・・・あっ,でも,そのぉ,き・君のお父さんも一緒にやるのかい?」
「ウン,そのつもりだよ」
「あ−・・・実はあの後君のお父さんに言われたんだよぉ,その・・・」
「なんて?」
「いやぁ,子供にはちょっと,その,刺激が強すぎやしないかって・・・」
「エ−,なんで?そんなことないよ,作ってよぉ,ね−バ−クレイ?」
「ウ−ン,困ったな・・・」
「じゃあさ,僕が作るからバ−クレイはそれを手伝ってよぉ,それならパパも怒らないはずだよ。カウンセラ−もきっと喜ぶしさぁ−」
「・・・OK,わかった,じゃぁ手伝って上げるよ」
「ワ−ィ,ありがとうバ−クレイ,きっとだよ!じゃ,またね−」
「ウン,バイバ−イ」
(アレク走り去る)

―― バ−クレイ 機関部で作業中 ――
「ピカ−ドよりバ−クレイ,聞こえるか?」
「え?!あ,はい,聞こえます。勿論ですとも,艦長。何でしょうか?」
「あ−いやぁ何,今手が空いてるんだったら,ちょっと作戦室まで来てくれないか」
「はぃ?いま,フェ−ズドインデュ−サ−の調整をしているところでして・・・もうまもなく終わるところです・・・もう終わりました。ではぁ,すぐにそちらに向かいます」
「よろしい,待っている。以上だ」

―― 作戦室にて 艦長・副長・そして興奮しているバ−クレイ ――
「待ってくださいよ艦長,そんな,嫌ですよ。僕はこのエンタ−プライズを離れたくありません。ここに来て僕は生活・仕事・・・やっと充実していると,毎日がとても,その楽しいんです。ああ,お願いです艦長,どうか。出て行けだなんて,それはあんまりだ。悪いところ,気に入らないところは言ってください。すぐ直しますから。副長も,何とかいってくださいよ。」
「まて,バ−クレイ,落ち着け,そう興奮するな!艦長は何も,君を要らないから出て行けだとか,お前の能力を疑っているからこの船から下ろすと言っているわけじゃないんだ!むしろその逆だ!わからんか?」
「そうだバ−クレイ・・・とにかく座れ。気持ちを落ち着かせろ。詳しく話すと,スッ,じつわ−,先日のモリア−ティ教授の件が艦隊技術本部のォ,とある重要なプロジェクトチ−ムの耳に入ってな,その時の働きが認められたのとォ,そこのチ−フ,あァ−,ジマ−マン博士だったかな,彼がぁ士官学校の頃の君を憶えていてねぇ,先方から是非にとのご指名だったのだよ。なんでも君はアカデミ−でも名うてのホロプログラムスペシャリストだったとか。そこでその要請を副長とも相談してみたんだがなぁ,まぁ,さしあたって機関部が急に忙しくなる事もなさそうだし,暫くすると艦も基地で大掛かりなメンテナンスといくつかの改修をする予定の他には,天体の観測ぐらいのものだ。そこでプロジェクトが終了する迄という条件でなら,要請を受け入れて,一時的に,アァ,あくまで一時的にだぞ,君に木星基地にある開発グル−プへ行ってもらいたいんだ。このエンタ−プライズの代表としてな?どうだ,志願してくれるか?バ−クレイ・・・。」
「まあ,お前も今突然のことで混乱しているだろうから,1晩ぐらい時間をやろう。だから艦長のおっしゃられた事を,・・・じっくり考えてみるんだぞ!これはお前にとってもチャンスなんだ。結論を明日聞かせてくれ。それで宜しいですね?艦長」
「ん,異存はない,じゃじっくり考えて見てくれ。下がっていい。あ−,バ−クレイ・・・期待しとるぞ。」
「それからなバ−クレイ・・・早ければ4日後には地球に向かう船と合流する予定だ,途中,木星にもよるが,乗り移る時は,シャトルを使っていいぞ。転送が嫌ならな」
「副長!お心づかいは感謝いたしますが,まだ私は行くと決めたわけではありません。僕はこの船に居たいんです!」
「あ−!艦長,もう一度考え直してくださいよ!どうか・・・」
「バ−クレイ,君も私も艦隊士官なんだ,任務はぁ絶対だ・・・」
「取りあえず,カウンセラ−にでも相談してみてはどうだ?」
「カウンセラ−?あ−,はい,それは良い考えですね副長?ではそうします。失礼しま,・・・あ−,でもまだ木星に行くと決めた訳ではありませんからね。離れたくないんです,この船を。」
猪のように興奮して憤慨したバ−クレイが出ていった。
ピカ−ドとライカ−は顔を見合わせて深いため息を吐いた・・・
ほんとに彼は優秀なんだろうか?


−−−−−− 第3幕 占い師ガイナン −−−−−−−

―― バ−ラウンジ ――
「わかってます,ええ,自分でも。いつもそうなんです,自分では気を付けてはいるんですが,何処へ行っても私はトラブルを起こし周囲に迷惑をかけてしまい,あ,その,嫌われてしまうんです。わかっているんです!」
「そんなことないわよ。」
「いいえ,カウンセラ−,慰めなんて,気をお使いにならないでください,僕は何をやっても駄目な人間なんです」
「そんなこと無いじゃない。この間もオブライエンが言っていたわよ。あなたのおかげで転送機の安全性が増したって,それに艦長だってモリア−ティ教授の件ではあなたを頼りにしていたじゃない。そんな風に考えては駄目よ」
「でも艦長たちは,僕を船から・・・」
「バ−クレイ!お願い,冷静になって。私もあなたも艦隊の士官なのよ。」
「ぼ,ぼくわ!・・・」
(バ−クレイ勢いよく立ち上がり,ちょうど彼の後ろを歩いていたガイナンとぶつかる)
ドッスン,ピシィ!
「あぅあ!も,申し訳ない,いや,その,ぼ,僕が悪いんだ,ろくに周りを確かめずに,その興奮しちゃって・・・申し訳ない,も,ほんといつもこうなんだ!」
「フ−,いいえ,いいのよ,私の方こそ迂闊だったわ,私だってろくに周りを確かめていなかったんだもの」
「こ,この割れてしまったものは僕が責任を持って弁償させてもらいます,・・あの,この大きなガラス玉みたいなもの・・・何ですか?」
「これわね,その昔地球のある種族が自分たちの未来を予知する時の道具として使用していたもので−,水晶玉って言うのよぉ。」
「え,ほんとに済みません,そんなに大事なものを,その,何といってあやまっていいか・・・でも、あぁ、なんでそんなものをお持ちなんです?」
「壊れてしまったものはしょうがないわね,そんなにあやまらなくてもいいわよ,これはね,その昔私が地球に居た400年ほど前に教わったのだけど。占いって言うのに使うの。こうみえて昔はよくやったんだから・・・」
「そんなこと・・・当たるんですか?」
「たいていの人はぁ、非科学的だし根拠も無いからっていって,今の人には全然信じてもらえないみたいだけれど・・・昔はよく当たるって評判だったわ、こう見えてうまいんだから」
半分ひびが入った玉をバ−クレイが拾い上げ、ガイナンに渡す
「いい?ちょっとひびが入ってしまったけど、この真ん中をまっすぐ。よくみてて。」
「ここかい?こんなふうに?」
・・・10秒ほど時が流れる
「あら,いやだわ,…曇ってきたわね…」
「え、僕には、・・・」
「し−、静かに。私が見ている時は心を落ち着かせて、まっすぐ見てるの。」
「この曇りは、え−と…暗闇に踊るサル・・だったかしら、イエ違う・・・釈迦のうたた寝だったかしら・・・ということは・・ねぇバ−クレイあなたいま迷ってるんじゃない?どうしようもない不安にかられて・・?どぉ?」
「あ、すごい、いやはやすごい、そのとおりなんだ、僕は今の生活を、生活を…」
興奮してガイナンのほうを向く。
「落ち着いて、この玉から目をそらさないで。そして心を空っぽにして」
「ふふ、ほら、肩に力が入ってるわよ、バ−クレイ」
「あぁ、有り難う御ざいます。けどそんなふうにカウンセラ−に、その見つめられていると、あのぉかえって緊張するんですけども」
・艦内通信が入る
「こちらビバリ−、ねぇディアナ?今大丈夫かしら?まだ勤務しているの?もう約束の時間がだいぶ過ぎたけど…今日は太極拳の練習は止めましょうか?」
「あぁ、ビバリ−ごめんなさい、今はちょっと・・まだ勤務中なの。今日はちょっと長引いちゃって」
「そうなの、残念ね。せっかく着替えたんだけど…じゃ私は暫くやっていくことにするわ。」
「それでね、今このあたりがかすかに光ったでしょ」
「ちょっと待ってください、カウンセラ−有り難うございました、せっかくの御予定をぼくの所為で変更なんかなさらないでください。このとおり今ガイナンに僕の未来について占ってもらってるところなんです。今大事なところなんですって、最後には自分で決めますが…ちゃんとカウンセラ−にも結果は報告致しますから…」
「えぇ?そんなもっと真面目に考えなきゃ駄・・」
ガイナンがディアナに向かってウインクしながら、そっと肯いて見せる。バ−クレイには背中ごしなので気づかれてはいない。こんな時のガイナンはとても頼りになることを長年の付き合いで知っていたディアナは、彼女が何か力を貸そうとしている事を悟った。
「フ−、そう、あなたが自分で決めた事だもの、それも良いかもしれない。それにいずれみんなだって、この船を下りるときが来るの。私も、ラフォ−ジ少佐や,艦長だってね。でも今回のあなたの場合は又戻ってこれるんだもの。気を楽に考えてね!それじゃ私は行くから」
「はい、カウンセラ−、それでガイナン?今の光りかたと僕の寿命の相関…」
さっきまでのカウンセリングは何だったのだろう?相変わらず彼の扱いは…疲れる
「ディアナよりビバリ−へ、今そっちへ向かってるところよ…」テンフォワ−ドの出口よりもう一度バ−クレイといたテ−ブルを振り返ってみた。熱心にかれはガイナンに質問をしてる様子だった。つくづく不思議な人…だが戸がしまったときには,もう今日は仕事のことは忘れようとしていた。

「あなたは止まっていると気をすり減らすようね。今までにも経験無い?周囲に誤解を与えてるって感じたとか…」
「そうなんだ、なんていうか、その、ぼ,僕はいつもベストを尽くそうとしてはいるんです、けど!」
「気を静めて!」
「けど、ほんと、あなたのいう事はどれも、当たっている。どうして?なぜそんなに僕の事知ってるんです?」
「ふふっ、言ったでしょう?私には占いの才能があるの。つまり,知ってるんじゃなくてこの水晶を通してわかるのよ。それと気になっていたんだけどさっきからあなたの未来に関係した事を占うたびに、」
「占うたびに?」
「強くひかるのよ、この水晶が。これはあなたにチャンスが近づいている事を表しているの。どう?最近何か節目になるような事があなたに起こってない?」
「すごい!ぴったりだ!一つ思い当たります。それでその、大事な相談なんだけど,チャンスを僕はモノにできるのかい?」
「見てみましょう。もう一度ここをよくみて…」
「…」
キラリと光った。今までで一番輝いたような気がする。
「ふふっ、答えが出たみたいね。あなたならやれるはずよ。もっと自分を信じて!頑張ってね」
呆然としているバ−クレイを残しガイナンは静かに去っていった。
小さくなっていくガイナンを目で追いながら…バ−クレイは声が出なかった。自分に、いつも嫌だと自分でも思っていた自分に…能力があったなんて。ふつふつと何かが込み上げてくる不思議な感情に戸惑いながら、何かが始まるんだとバ−クレイは確信?勘違い?した。


−−−−−−− 第4幕 バ−クレイの強い意志  −−−−−−

同一人物か?ともすればだらしなくあんぐりと開きそうな口元を慌てて引き締めてピカ−ドは彼の顔を見詰めた

これから今日の勤務に向かおうと、ブリッジへ行く為にタ−ボリフトを待っていたときに後ろからバ−クレイに呼び止められたのだ。
昨日の感情的な様子とは打って変わって、筋金が入ったようにシャンとしている。
何より吃りもせずに堂々と自信たっぷりに話し掛けてきているのに対し、逆にピカ−ドの方が驚きを隠せず返事ができない。
そこへタ−ボリフトが到着し2人は乗り込んだ
その間に,平静さを取り戻したピカ−ドがやっと口を開いた。
「ブリッジ!」
「それに私が貢献できれば出来るほど、早くこのエンタ−プライズに戻ってこれるわけでしょう?」
「ん?ああ、もちろんだとも。それは私がぁ、・・保証しよう」
「あ、それと昨日は大変失礼な態度を取ってしまい、不快な思いをさせてしまい申し訳有りませんでした。副長にも。」
「いやいいんだよ、突然の事だったんだ。誰も責めたりわせんよ。副長だってな」
「そういって頂けるといくらか気が休まります」
「バ−クレイ?無理してるんじゃないだろうな?カウンセラ−とは相談したのか?」
「ははは、艦長どうか御心配なく。僕はいたって真面目ですよ。問題ありません」
「フ−ム、それでは任務を了承した事はライカ−に伝えておこう。…明後日にはランデブ−ポイントが艦隊本部より指示される事になっている。あまり時間があるとはいえないから、副長とラフォ−ジに今後の引継ぎの事を話しておくといいだろう。」
タ−ボリフトが停止した
「わかりました艦長、今日中には行っておきます」
扉が開きブリッジが見える
「宜しい」降りながらピカ−ドは静かに答えた
扉が閉まりはじめる
「あぁ、バ−クレイ…」
「ハイ、艦長?」
「この艦を代表していくんだ、しっかりやってこいよ,頼んだぞ!」
「はい。わかりました」
ピカ−ドが応えて肯いたところでリフトは閉じた。
始まりの日より5日が過ぎた。
バ−クレイはあわただしく身の回りをまとめ、4日目に,つまり昨日,ランデブ−したUSSフット号に移乗して行った。ライカ−が心配そうに,しきりにシャトルの使用を勧める中、自分から転送機を指差して。


−−−−−−−−−  第5幕 ネタばらし −−−−−

タ−ボリフトを降りて、ピカ−ドはテンフォワ−ドに向かった。左手に小さな包みを持っている。
「やあガイナン,いやそれとも当艦随一の占い師と呼ぶべきかな?」
「あら艦長,何になさいます?申し訳ないんですけれど,艦長がいつもお飲みになっていたお酒は,この間スコット大佐に飲まれてしまって以来というものまだ入荷できてないんです。最近寄港しないから機会が無くって・・・」
「そうかまだだったか。・・・残念だな。しかし,ここまで来てア−ルグレイもないだろう・・・。」
「じゃあ,代わりに今日はこれを試してみない?」
今までガイナンが会話しながらかき混ぜていたグラスを差し出すとそこには発色系のキラキラ乱反射して眩しい,小さく砕かれた氷のようなものと透明なお酒とが入っていた
「いいだろう,これを試してみよう。・・・バ−クレイのことだがぁ,いろいろと君の世話になったそうだね?カウンセラ−からもきいているよ。」
「ふふ,私は−,たいしたことしてないわよ。巣立ちの時,恐くて飛べないひな鳥の背中を押してあげただけ・・・,ちょっと強引だったけど,彼は気がつかなかったみたい。それよりどう?味の方は?」
「ん?ああこれか? ま最初の一口は,ちょっと苦みが強いと思ったんだがぁ,二口目には苦みも薄れてきてほのかに甘い。いい香りもする。だが何よりも見ていて綺麗だな,グラスを揺らすたびに氷のようなものが割れていき・・・これがこの発色の原因か。飲むのが惜しくなるくらいだ。いったい,なんだねこれは?」
「これはね,ウトサ星のイマアという所でしかとれない天然の岩糖を使った,その星の名物カクテルなの。地球式に言ってみれば,氷砂糖を浮かべたシェリ−酒のようなもんね。唯,この透き通った氷砂糖が溶け出してこのお酒に反応するの。すると溶け具合によって味が大きくかわってくるの。この間ライカ−副長が連れの女性に,確かこう言っていたわ『このカクテルは僕の故郷のアラスカで見る大きな虹のようの7つの味が楽しめる』ってね」
「ウイルが?」
「ええ,この岩糖を浮かべるととても光って綺麗でしょ?だから人気が高いんだけど唯一の難点は保存が難しいということなの。かき混ぜてみるとわかるけど,触れるだけで簡単に割れてしまうでしょ?そのとき破片が光を乱反射させているんだけど,こんなにすぐに割れるようでは,岩糖そのものの扱いが難しいのよ。割れてしまうと内側の結晶面が空気に触れてしまいあっという間に質が落ちちゃうし・・・誰かに似てると思わない?」
「むっ?とするとぉ,これは正にバ−クレイそのものというわけかな?」
「そうよ,けどほんの少し周りが気を使ってあげると,ちょうど良い絶妙の甘さを出してくれるでしょ?ちょうどいい自信と,ちょうどいい環境。私は外から見てそのかき混ぜかた加減で調合しただけよ。」
「ふ−む。・・・ああ,そうだ忘れるところだったがぁ,そのバ−クレイがな,退艦する際に私にこれを託していったんだ。君にだよ」
「まあ,なにかしら?」
「なんでも,エンタ−プライズ,いちの,占い師の水晶割ってしまったお詫びだとかで,去り際にドタバタしながら必死で作っていたぞ。出発の間際に君に渡してくれとことづかったんだ。」
「まあ,なにかしら。あけてみていい?」
「ああもちろん,かまわんよ」
「・・・あら,きれいね。大きくて,そして純度の高い水晶じゃない!正真正銘のほんものだわ・・・」
「ホ−ウ,あいつもなかなかたいしたもんだな。腕のいい技術者であることはホントのようだな。どれ,わたしもひとつぅ−,この艦随一の占い師とやらに占って頂こうかな?コノ水晶で。」
「私コレの使い方なんて知らないわよ」
「ン?」
「占いなんて,400年ぐらい前,一度だけ地球でやってもらったことはあるけど,私はできないわ。それにその時の占い師に言われたの,『あなたは30台で結婚し,子供が2人出来て,80歳で孫に囲まれてしあわせに生涯を閉じるだろう!』って,真顔でネ。フフフッ,おかしいでしょ?でもその時は父に結婚しろ!とうるさく言われていた時期だったから,頭に来て机をひっくり返してやったのよ・・・。だから私はやり方も知らないのよ・・・。でも,本物の水晶って透き通っていて綺麗なのね。初めてだわ,こんなの。そうだ!バ−の飾りに使えるわね。そうだ,あのビバリ−にもらったあのテニスラケットの隣なんてどうかしら?」
「??? それでは,バ−クレイが割ってしまったという君の水晶というのは?」
「まだわからない?さっき言ったでしょう?ウトサ星で採れるイマアの岩糖はとっても脆いの。採掘された時のように,とても大きい硝子玉の状態では表面の膜で,酸化が防げるんだけど割れたりひびが入ってしまったらもう駄目ね,長くわもたないの。1週間が限度ってとこかしら。」
「とするとこのグラスは−?」
「ええそうよ。今艦長が飲んでらしてるのがその一部よ。だから今週中には残りの岩糖を使い切らなきゃいけないの。それで皆に薦めているわけ。早く使い切りたいから,みんなにも後で来るように言っといてよ。」
「・・・なるほど,一癖ある味だよ。ハハハッ。わかった,必ず伝えておこう。」
嬉しそうな表情の2人は,その後10分ほど他愛の無い話しを続けて艦長は自室に戻る為,ガイナンに別れを告げバ−を後にした。
その姿を見送り,ガイナンはいそいそとテニスラケットの横に台を置き水晶を置いた。向きをあれこれいじっていたが,やがて納得したのか,大きく頷いて楽しそうに2つの展示品を見やり,仕事に戻って行く。最後にもう一度振り返りながら。


−−−  第6幕 帰ってきたバ−クレイ そ・の・ま・ま・で! −−−−−−

時は流れて約1年後の宇宙暦47653.2の第1転送室にて
今日はあのバ−クレイの帰還日である。

予定時刻に通信通り,転送台に人が浮かび上がってきた
「やあ,レジィ,お帰り。どうだった?木星の生活は?」
「少佐!お久しぶりです。あそこの基地には,すばらしいホロデッキがありましたよ」
「・・・あっちじゃ楽しんでたようだな?だが,ここに帰ってきたからには覚悟しとけ!早速だが機関部ではやらなくちゃならない調整と検査が山のようにあってな,みんなお前が帰ってくるの待ってたんだ。」
「ラフォ−ジのいうとおりだ!機関部ではお前が抜けたこの1年,皆でお前の穴埋めをしてきたんだからな。ところで開発は上手く行ったのか?ポラスキ−博士にはお会いしたか?」
「副長!ポラスキ−博士には,その,まあ,何というか,あまり話せませんでした。あまり話したくなかったので・・・」
「その様子じゃ,お前もポラスキ−博士に大分こき使われて苦労したんだろう?」ライカ−の胸に数年前の光景が蘇った。
「はィ,その,あ,それよりもこの開発の成果を早速エンタ−プライズにも設置したいのですが,副長!許可をいただけますか?」
「上手くはぐらかしたな。まぁ,いいだろ,艦長もDr.クラッシャ−も興味を持っていてナ。実を言うとお前が早く帰ってくるのを首を長くして待っていたんだ。もう許可は下りている。早速始めてくれ。ラフォ−ジも手伝ってくれると言っているから協力してもらうといい」
「さ,レジィ!こっちに来いよ。第2ホロデッキでテストをしよう。場所は憶えているか?」
「少佐,勿論ですって,さあ行きましょう!」
足早に進んで行くバ−クレイを見やりラフォ−ジとライカ−が同時に話した。
「少しは頼り甲斐って奴がでてきたのかな?」
「だといいんですけどね」

―――――  第2ホロデッキ  ――――――――
「おいレジィ,こっちはサブマトリックスとの接続が終わったぞ。次は何をすればいい?」
「こちらも,もう,まもなく,・・・終わりました少佐。医療室ではないので治療の実施テストは出来ませんが,これで診断機能を始めとする映像部の機能テストまでは出来るはずです。」
「そうか,じゃお前のこの1年の成果って奴を見せてもらおうか?こっちは何時でもいいぞ!」
「分かりました。始めます。あ−コンピュ−タ?緊急用医療ホログラム試作タイプ,ジマ−マン,タイタン型,プログラム開始!」
突然ラフォ−ジの後ろに青い科学士官の制服を着た中年男が現れた。
「緊急時医療用ホログラムドクタ−だ。何か緊急事態かね?状況を説明し給え。患者は何処だ?」
「お,おい?レジィ・・・なんだよこいつは?」
「あっ,ご紹介します少佐,こちらは緊急医療用のホログラムドクタ−です」
「ドクタ−,こちらはエンタ−プライズ号の機関部長のラフォ−ジ少佐です」
「では君が患者かね?見たところ元気そうだし,別に緊急事態には見えんがね?」
「いえ,あ−,ドクタ−,これは,その,船にあなたを装備する為の事前テストでして,その,つまり」
「ふん,つまりここには私を必要とする患者は居なければ,緊急時でもないわけだな?じゃさっさとそのテストとやらを済ましてくれんか?」
「おい,バ−クレイ?こいつホントにこんなんで大丈夫なのか?使い物になるのか?」
小声で不満をぶつけるラフォ−ジ。
「ええ,医療面における知識はDr.ポラスキ−のお墨付きが出てますよ。ところで少佐は最近どこか体で具合の悪いところとかは有りませんか?」
「いや別に。検診だったら先週受けたばっかりだし。そうだ,長旅だったんだろ?お前が診てもらえよ」
「え−と,それでは,ドクタ−?最近ずっと熱っぽくてぇ,くしゃみが止まらない時があるんだ。鼻詰まりもある。木星を発っていらいずっとこんな調子なんだけど,診断してもらえるかな?」
「こんな何も無い部屋でかね?」
「あ−,それでは,考えられる病気名を言ってみてくれないか?ウ−ン,症状が重い方から・・・」
「それならぁ,まず不活性内炎症イバヤ病サブタイプγ,活性内炎症イナブア病,ヌシグス病のセ−タ型外壊疽抗原菌による進行性・・・」
「もういいよ,優秀なのはわかったさ。だがレジィは,俺の見たところ唯の風邪だと思うね,ちなみに後幾つ言うつもりだ?」
「私の医療用デ−タベ−スからはあと3万7千679の症例があったんだが」
「おい,レジィ,確かにこいつは優秀だと思うよ。でもチョット現実・・・,おい?レジィ?大丈夫か?顔色悪いぞ!」
「ド.ドクタ−?君が挙げようとしていた症例の内,命にべ,別状が無いと確認されているのはい,幾つある?」
「3万7千678だよ」
「大変だ!こんなことしてる場合じゃない!少佐すいません!失礼してチョット医療室に行ってきます!」
「あ,おいバ−クレイ?・・・」
もう部屋から居なくなっているバ−クレイに唖然とするラフォ−ジ
「フ−ム,又消し忘れか・・・」
「おい!今言ったことってホントか?」
「ん?ああ,命に別状があるものね。そりゃ治療も処置も何もせずにほったらかして居りゃ,どれもが重大な手後れになって死ぬ可能性を秘めているさ。」
「じゃなんでそう言ってやらなかったんだ?あれじゃ誤解して・・・ん?数が合わないぞ!残りの1つってなんだ?その病気だけ何故死なないんだ?」
「ああ,そりゃ仮病だよ。テストテストでみんなかかってもない病気の相談ばかり受けていたんだ。いい加減うんざりもするさ。」
「・・・なるほど,おまえは確かにあのバ−クレィの作ったホログラムだよ。」
出て行こうとするラフォ−ジに呼びかける
「あ,オイ!出て行くんだったら,すまんが私を消していってくれないかね?皆消し忘れて行くんだよ。まったく・・・」
「フッ−,おいコンピュ−タ。ホログラム終了!」
「うん。」大きく頷いてホグラムドクタ−が消えて行く。
ボソッとラフォ−ジは呟いた「このエンタ−プライズでお前が活躍しなきゃならん日が永久に来ないことを,俺は心から願うよ」
疲れたか頭を軽く振りながらラフォ−ジは第2ホロデッキを後にした。   

<この後バ−クレイはシックベイにてクラッシャ−の診断を受け,謎のイントロンウイルスの話しへと繋がっていきます>

---「裏バ−クレイ物語 パラレル編B」おわり---


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